中国の日焼け止め市場で抖音が”独り勝ち”——天猫・京東が沈む中で何が起きているのか
導入:プラットフォームの地殻変動が化粧品市場を揺るがしている
中国のECプラットフォームは今、かつてない構造変化の真っ只中にあります。特に化粧品カテゴリーのなかでも季節需要が明確な「日焼け止め」市場は、その変化を如実に映し出す「リトマス試験紙」です。
知行合一集団が発行したレポート「2025年防晒产品电商消費趋势」によれば、2024年の中国日焼け止めEC市場では抖音(TikTok Shop中国版)が市場シェア52.4%を獲得し、文字通り”半分以上”を占める構造が確立されました。一方、かつての王者である天猫(Tmall)は35.4%に後退し、京東は12.2%まで縮小しています。
この変化は単なるプラットフォーム間の競争にとどまらず、日本ブランドの売上、ブランド戦略、そして日本企業が中国市場にどう向き合うべきかに直結する重要なシグナルです。
抖音がなぜ日焼け止め市場を制したのか
3年で逆転した市場シェアの推移
まず数字で状況を整理します。
| プラットフォーム | 2022年シェア | 2024年シェア | 2024年前年比 |
|---|---|---|---|
| 天猫(Tmall) | 56.5% | 35.4% | 下落 |
| 京東(JD.com) | 14.8% | 12.2% | −20% |
| 抖音(TikTok Shop) | 28.7% | 52.4% | +34.6% |
わずか2年で天猫と抖音の立場が完全に逆転しています。抖音は2023年に前年比+58%、2024年にも+34.6%という高成長を維持しており、2024年の販売額は56.5億元(約1,130億円)に達しました。
ライブコマースと「発見型購買」が消費構造を変えた
なぜ日焼け止めで抖音がここまで強いのか。背景にあるのはライブコマースによる衝動購買・発見型消費の台頭です。
日焼け止めは「使い切り型で消耗サイクルが短い」「SPFや成分など比較要素が多くコンテンツ映えしやすい」「夏前という明確な需要ピークがある」という特性を持ちます。これらはすべて、短動画やライブ配信との相性が極めて高い要素です。インフルエンサー(KOL/KOC)が実際に塗り方を実演し、リアルタイムで購入を促すフォーマットが、特に若年層女性の消費行動にフィットしています。
一方、天猫・京東は「目的買い」プラットフォームです。すでにブランドを知っている消費者がリピート購入する場としては機能しますが、新規ブランドの発見や衝動購買の場としては抖音に劣後しています。
具体的なデータが示すブランドの明暗
勝ち組:抖音で急成長した中国・グローバルブランド
抖音での防晒霜(日焼け止めクリーム)トップ30を見ると、興味深い構造が見えます。
抖音防晒霜トップ5(2024年)
- 蜜丝婷 Mistine(タイ系):6.09億元 / 前年比+64.3%
- 美康粉黛 MEIKANG(中国系):4.27億元 / +10.0%
- 欧莱雅 L’OREAL(フランス):3.35億元 / +202.0%
- 安热沙 Anessa(資生堂・日本):3.18億元 / +47.5%
- 柳丝木 Ositree(中国):1.93億元 / +256.8%
注目すべきは、欧莱雅が前年比+202%という爆発的成長を抖音で記録していること。これはライブコマースへの積極投資と、ローカルKOLとの組織的な協業の成果とみられます。また資生堂のAnessa(安热沙)も+47.5%と健闘しており、日本ブランドとして抖音での存在感を示しています。
負け組:天猫・京東で苦境に立つブランドたち
一方、同じAnessaを天猫・京東で見ると、いずれも前年比−29〜31%の大幅下落です。天猫での防晒霜1位はMistineで販売額4.62億元(前年比−22%)、2位のAnessaは3.86億元(−29.5%)と、トップブランドでさえも旧来チャネルでは軒並み苦戦しています。
また防晒喷雾(日焼け止めスプレー)は、天猫で−38.2%、京東で−37.5%と壊滅的な落ち込みを見せており、スプレー形態のブランドは特に抖音シフトへの対応が急務です。
日本企業・日本人への影響と示唆
キャリアへの示唆
中国市場の化粧品・美容領域に関わる日本人にとって、このデータは「どのプラットフォームの知見を持つかが市場価値に直結する」ことを示しています。
- 天猫・淘宝の運営経験だけでは不十分。抖音ECの仕組み(ライブコマース設計、KOL連携、コンテンツ制作)に精通した人材の価値が急上昇しています
- データマーケティング能力:抖音のアルゴリズムに基づくコンテンツ最適化、コンバージョン分析が求められます
- 中国発のソーシャルコマースは日本・東南アジアにも波及しており、抖音EC戦略の経験は越境キャリアとして汎用性が高い分野です
ビジネスへの示唆
日本の化粧品ブランドや商社が中国市場で戦うために、今すぐ取るべきアクションは明確です。
- 抖音への予算シフトは急務:Anessaの抖音+47.5%成長は、投資対効果の高さを証明しています。天猫でのブランディング維持は必要ですが、成長ドライバーは抖音です
- ライブコマース専用のコンテンツ戦略を構築:既存のブランド広告素材の流用ではなく、抖音ネイティブな短動画・ライブ配信コンテンツへの投資が必要です
- 新興チャネルのKOC(一般消費者系インフルエンサー)活用:KOLだけでなく、リアルなレビューを発信するKOCとの継続的な関係構築が購買につながります
- 防晒霜(クリーム)への集中:スプレー・その他カテゴリーは全チャネルで縮小傾向にあり、クリームタイプへの商品・マーケ資源の集中が有効です
まとめ:3つのポイント
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抖音が中国日焼け止め市場の過半数(52.4%)を制圧。2022年から3年でプラットフォームの勢力図が完全に逆転しており、この傾向は化粧品全カテゴリーに波及する可能性がある
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日本ブランドの明暗はプラットフォーム戦略次第。Anessaは抖音で+47.5%成長を達成した一方、天猫・京東では約30%下落という対照的な結果が出ており、「どこで売るか」の判断がブランドの命運を分けている
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成長しているブランドに共通するのは「抖音ネイティブ」な戦略。欧莱雅の+202%、珀莱雅の+87%(天猫)など高成長ブランドはコンテンツ・ライブコマースへの積極投資が共通点であり、日本企業も「コンテンツ×データ」型の中国戦略への転換が急がれる
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